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| Ech.ホレマニー'ブラッドレッド'のシュート…?(写真提供:むつをさん) |
今回は誰でも見たことがある、けど誰もどう呼んでいいのかわからない構造について。
エキノドルスについて何かを書くとして、2つのネタしか思いつきませんでした。
というか個人的にエキノドルスの一番面白い点は2点に凝縮される。
もう一つのネタで書こうと思っていたのですが、本当に誰も調べていない名状しがたい構造な上に、ちょうど書き始めたところで「あれはなんだ」という質問メールが大御所からきてしまったので・・・やめておきます。将来的に研究が進んでくれればと思います。
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| Ech.ホレマニー'座標軸'の水中子株 |
さて、エキノドルスの花茎から子株ができるのを見たことがない水草好きはいないでしょう。
しかし、これを何と言っていいのかわからないのです。日本では「シュート」と呼ばれていますが、「シュート」とは茎とそれにつく葉を植物の単位としてとらえて議論を進める場合に用いられる語です。つまりロゼット状のエキノドルスの場合、極めて短い茎と葉の集合体、つまり株全体が1シュートとなります。たしかに花茎から出た子株1つはシュートと言えなくもないですが、花茎全体をシュートというのはどうも…。
そもそもこの状況について掘り下げた文献が異様に少ないです。これは非常に奇妙ですが、たとえば、カッセルマンはこれをAdventitious plantletと呼んでいます。たしかに異常な場所に出た芽ですから、この呼び名は間違ってはいないでしょう。しかしながら、暫定的な呼び名であるようには思われます。より包括的な視点で見てみるべき現象でしょう。そうすると面白くなってきます(しかし面白いことに、いい参考文献がないのです)。
エキノドルスの子株は花茎の苞の基部から生じており、通例の場合では花が咲き終わると発芽する傾向があります。しかしながら、通常では花茎先端のみ子株を生じる種もあり、そうした場合は花茎を1節ごとに切り取って水面に浮かべておくとやはり、苞の基部から子株が出てくるのを観察できます。さらに先端の子株を切り取ると、次の節の花の付け根から子株が出たりします。不思議です。
さらに、エキノドルス以外にも目を向けてみましょう。花茎から子株が生じるのは幾つかのオモダカ科に限定的ながらみられます。
エキノドルスの異常な点は空中にある花茎からも子株を盛んに吹く種があることです。
他の属でよく花茎から子株を吹くのはそれが水に沈んでしまっているときで、バルデリア、ヘランチウム、ラナリスマ、ルロニウム、ウォーターポピーでみられます。そのうち、ルロニウムとウォーターポピーではもはや花茎が本体のようになっています。オモダカも異常な熱に晒されたりすると狂ってしまい、花茎から子株が出ることが稀にあります。
ラナリスマとヘランチウムの花茎は水に沈めるとその先端からランナーが生じる場合があり、この二種の場合どうやらランナーと花茎は相同で、水中の花茎がランナーになっていると考えられるでしょう。苞の付け根にムカゴがつくマルバオモダカも同様のタイプと考えられます。この種ではムカゴばかりつける花茎と花ばかりつける花茎がありますが、花ばかりつける花茎に突然ムカゴが生じるのは毎年よく見る光景です。アギナシやウリカワに近縁なサジタリアであるシャムアギナシでは葉腋から出る棒状の花茎状の構造に多数の球茎ができ、同じような現象がみられるのは非常に示唆的です。
おそらくオモダカ科のさまざまな属にみられるランナーや球茎はどれも、エキノドルスにみられるような花茎とそこに出た子株が特殊に変形したものであると予想することができます。
単子葉植物において、花序の付け根から子株が生じるのは珍しくない現象であるように思われます。ハタベカンガレイの子株(カヤツリグサ科)、ホシクサの“直撃”(ホシクサ科、これにはProliferating headという名がある)、ノビルのムカゴ(ヒガンバナ科、球芽)、チランジア(パイナップル科)、アガベ(リュウゼツラン科)などにみられます。
これらはアポミクシスと呼ばれることがしばしばありますが、被子植物に通常用いられる狭義のアポミクシスとはまったく別のものです。狭義のアポミクシスは簡単に言えば、植物における処女懐妊のことです。身近な例でいえばセイヨウタンポポなどにみられ、受粉していないのに単為生殖により種子ができます。
それに対して花の代わりに子株ができるタイプはVegetative apomixisまたはPseudoviviparyといいます。これは単に花が子株に置換されている、と考えることができます。花を作る生長点から子株ができてしまった…という単純な見方すらできるかもしれません。しかし、ムカゴが花と同時に形成され、ムカゴが増えれば増えるほど花が減っていくようなものは真に花が子株に置換されているといえるでしょう。身近な例ではノビルがいい例です。しかしながら、エキノドルスやアガベ、チランジアなどの場合明らかに、花が咲いてから子株が生じています。そして花の数と子株の数にトレードオフはないように見えます。これはもはや、子株が花を置換しているとすらいえないのではないか、と思うほどです。
さて、Vegetative apomixisらしき現象は双子葉類でもポツポツ見られます。たとえばウォーターローズは水槽内で開花すると花茎の各節から根が出てきて、そこに小さなウォーターローズが鈴なりになって芽キャベツのようになり、実に愛らしいものです。しかしながら、ここまでみてくるとVegetative apomixisとただの脇芽との区別が怪しくなってきます。
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| ウォーターローズの花茎(基部に子株と発根が見られる)(写真提供:むつをさん) |
むむ、腋芽か。
ここでエキノドルスの花茎を有茎草に見立ててみよう、という狂気に満ちた試みをしてみようと思います。
ウォーターポピーやルロニウムでは草体の殆どが花茎で花茎が水面を這いまわりながらヒルムシロのように生育しますから、エキノドルスをそう見たててもそこまで狂気の産物とは言えないでしょう(と言い出すこと自体が狂っています、ご注意。)
葉を全部むしって苞葉を葉に見立てると、根茎から多数分岐した茎に花が腋生し、葉腋には腋芽がついた有茎草の出来上がりです。すると先端は頂芽ということになり、それが切り取られるとまた次に先端に近い子株が出てくるのも納得がいきますし、根茎を掘り取って切っておくと子株が出てくるのと、花茎を切って浮かべておくと子株が出てくるのは同じ構造であるということになります。
物事には見方が色々あるので、見慣れたものも不思議に思って観察すると楽しいです。
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| (写真提供:むつをさん) |
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| (写真提供:むつをさん) |
水草、果てしない挑戦の数々 2025年4月4号掲載
「水草の色には理由がある(2)」
以前の記事で黄緑色の水草は葉に含気することにより草体内でのガス分配速度を上げているのだ、という話を書いた。
葉の内部が含水してしまえば、いわゆる組織培養でいうところのビトリフィケーションの状態となって、透明感のつよい濃緑色になってしまう。そしてそうなれば、二酸化炭素の草体内の拡散速度は9000分の1になってしまい、もはや光合成が困難になる。
しばしばこの機構が壊れて草体内が含水した変異株を“沈水化”と呼ぶことがある(ポゴステモンやパールグラスなど。野外ではオオカワヂシャなどで見る)が、こうした株はやはり成長速度が遅いし、二酸化炭素が多い水中でないとうまく育たないことが多い。
また、水中で育てられない植物を水に漬けると、やはり透明になってしまうのはこれが原因だ。透明になってしまうから光合成速度の低下を起こして育てない、というのと、草体内から水を追い出す、ないし草体内への気孔を通じた水の進入を防ぐシステムが未発達である(水草においてこのシステムはあまり調べられていないと思うが、陸上植物においては気孔の孔辺細胞に突起を設けることでカバーしている)、ことなどから“溺れている”といえるだろう。
では、それに対して葉が薄く色の濃い水草はどうやっているのだろうか。
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| エビモ(Potamogeton crispus) |
アナカリスなどの水草は、非常に薄く、殆ど1~2層の細胞しか持たない葉を持っている。これはしばしば水草の代表例として紹介されているが、さきにも書いたように必ずしもそうとは言えない。重炭酸イオンを使うようになった水草については別の機会に紹介したい。
水中のガスを表面から直接取り込むのには合理的だが、いくつか障壁がある。
まず、植物の葉は通常クチクラに覆われており、これは水を弾くワックスのように機能する(余談だがクチクラはおそろしく化学的に安定であり、適切に保存されれば堆積岩中で数億年残る。化石植物において最も重要な分類形質の一つである。)。
さて、このクチクラは水も空気も通さないので、乾燥から身を守ることと空気を表面から取り込むことはトレードオフの関係にある。ゆえにふつうの植物は乾燥から身を守ることと引き換えに気孔を通じてガスを出入りさせるし、葉面吸収などもかなり効率が落ちてしまう。しかし水中ではクチクラを退化させても、好適な環境ではそこまでの問題は生じない。(物理的・化学的攻撃に脆弱になるが…。たぶん水草が“溶ける”とか、水質に大きく影響を受ける原因はそこにあると思う。)
しかし、含気構造を退化させるということ自体が光の利用効率を下げてしまう。ふつうの含気構造を持つ植物はさしこんだ光が内部で散乱して光利用の補助となるから、葉を単純に薄くすることよりも黄緑色でなくなること自体が光の利用効率を下げることになる。
そのため、それを利用するために、透明感の高い水草は密度の高い茂み…つまるところ、藻場を作る傾向がある。黄緑色の水草も藻場のようになるものがあるが、規模も縦方向の広がりも比べるべくもない。葉の透光性が低く、光の利用効率が高いために深い茂みを作れない。たとえば、だからロタラの下葉は落ちやすい。
こうした水草は水中へのさらなる特化のため、水によく溶け、しばしば水中での存在量が非常に高い重炭酸イオンを使えるものが多いが、そうでもないものがある。
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| カワゴケ(Fontinalis hypnoides) |
カワゴケがその代表で、湧水の二酸化炭素が常に豊富な環境でのみ生育するため、CO2のみしか利用することができない。葉は極めて薄く軟弱で、水からあげるとまるで剛性をもたないことで他の水生コケ類から区別しやすい。
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| 透明なシダ類(Crepidmanes sp. Papua New Guinea) |
同様に、水しぶきが常にかかり気孔が基本的にふさがれてしまうような植物・・・たとえばコケシノブ類なども濃い色で透明感の強く極めて薄い、さらには気孔すらない、水草に似た葉を獲得している。これもやはり、薄い葉を使って表面から直接二酸化炭素を取り込んで光合成しているものらしい。余談だが、気孔の役割は気相において、水を吐き出すことにあるかもしれない…極端な例では、ツノゴケの気孔は光合成ではなく胞子を乾かすのが主な役割だし、木本があれだけの高さに育てるのも気孔が水を吐き出すことによる(毛細管現象では樹木を説明できない。)。
こうした薄い葉は構造が単純であるためか、乾燥した環境に細胞内の水分を脱水させ、まるでフリーズドライ食品のように“蘇生”するものが知られている。コケシノブ類は葉が乾いて休眠するものが多くいるが、何と水草にもそういうものをやる種類がある。
たとえば関東は冬にからっ風が吹いて雨が降らないことから夏と冬で地下水位の上下が激しく、カワゴケの生育する湧水は干上がり、カリカリに乾いてしまう。しかし水が入ると驚くべきことに復活する。カワゴケ類の乾燥耐性はクロカワゴケなどにおいて調べられているところであるが、まだ完全に解明されたとはいいがたい。また、応用すればもしかするとカワゴケ類に関しては乾燥保存して「インスタント水草」ができるかもしれない。(カワゴケ類ということでオレゴンリバーモスあたりから実験するのもありかもしれない)
さらにいえば、薄く単純な構造の葉をもつ水草は乾燥に対する前適応であるようですらあり、Chamaegigas intrepidusなど乾燥耐性のある水草はほかにもいる。C. intrepidusはあまりにも極端な例ではあるが、水域が季節的に干上がるのは割とよくあるイベントなので、探してみると他にも乾燥可能な水草が存在する可能性は残っている。
水草、果てしない挑戦の数々 2025年5月4号掲載
「水草と光呼吸 ~CO2を添加すると急激に育つのに、CO2なしだとすぐ枯れるのはなぜ?~」
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| ミズオオバコとスブタ |
呼吸の話ではない。
CO2添加すると急激に育つし育てやすいのに、添加しないとなると一気にダメになる水草があります。なぜでしょうか。
今回はこれについて光呼吸という観点から、断片的な説明を試みてみようと思います。
光呼吸という言葉に耳慣れない方は多いと思います。名前は聞いたことがあっても、光合成と対になる反応、というイメージを持っている人も多そうです。
水草における光呼吸について話す前に光呼吸そのものについて説明すると、C3光合成は極めてザックリ言うと光エネルギーを用いてATP(アデノシン三リン酸:エネルギー)とNADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸:電子伝達体、還元剤)を作り、その過程で水の分解と酸素の生成が起きる反応(明反応ともいう)と、ATPとNADPHを使って二酸化炭素を固定するカルビンベンソン回路からなります。
二酸化炭素1分子の固定に3ATPと2NADPHが必要です。(この説明は超絶ザックリなので、各自勉強してください。)
このC3光合成がほとんどの植物に見られる基本形で、これにCO2濃縮システムがつくとC4光合成(強光、乾燥地帯の植物に見られる)やCAM光合成(多肉植物に見られる)などの名前がつきます。
なぜCO2濃縮システムがつくのかというと、カルビンベンソン回路においてCO2を取り込む際に用いられる酵素のRuBPカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(通称ルビスコ)がかなりの曲者だからです。
ルビスコはまず極めて遅い酵素です。さらにルビスコはカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼとして、CO2を付加する反応と、酸素を付加する反応の両方を起こします。つまり二酸化炭素が不足し酸素が多くなると、酸素が付加されてホスホグリコール酸が生じます。
これはカルビンベンソン回路の強烈な阻害剤として働くので、これを処理する反応が起きます――これを光呼吸と言い、この処理にもATPとNADPHが必要です。
つまり、CO2不足はルビスコによる酸素付加反応とその処理によるATPやNADPHの喪失を起こさせます。1回の酸素付加反応あたり5ATPと3NADPHが消費されます。ルビスコが遅い酵素なのもCO2を使い切りにくいという点でメリットなのかもしれません。
さて――ここまで書くと、水草におけるCO2不足がどれだけ深刻な問題なのかよくわかると思います。
光呼吸は陸上においてすらC3光合成の光合成効率を2割~半減させるといわれます。水中では二酸化炭素の拡散速度が陸上のほぼ1万分の1であり、さらに溶存二酸化炭素はpHの上昇や水温上昇によって低下します。
つまり細胞内のCO2/O2比が低下しやすく、そのためシングルセル・C4回路(クロモやオオカナダモなど)、CAM回路(ミズニラはじめとして多くの水草)、重炭酸イオン利用(一部の沈水植物)など、CO2濃縮機構が発達しています。
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| ミズオオバコとスブタ |
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| ヤナギスブタ |
アクアリウムプラントとしてよく知られた植物では、ヤナギスブタ(ブリクサ属)はCO2専門、ミズオオバコ(オテリア属)は重炭酸イオンや炭酸イオンまで用いることができます。Liら(2025)¹では、低CO2条件においてミズオオバコの重炭酸塩利用が光呼吸を安定させていたのに対し、ヤナギスブタでは光呼吸が著しく上昇することを示しました。
さらにヤナギスブタではミズオオバコよりもルビスコのカルボキシル化速度が速く、CO2が不足しない条件ではヤナギスブタの光合成速度がミズオオバコを上回ることも示されました。
ここからは個人的な感想です。
二酸化炭素が不足しない条件を前提にした水草ではルビスコの触媒反応速度を上げても問題が発生せず、光合成を高速化する方向が有利になると思われます。一方で二酸化炭素が不足する条件ではルビスコの触媒反応速度上昇はCO2枯渇を招き、光合成速度を抑えたほうがむしろ適応的です。
そして、高CO2を前提とした光合成速度の速い水草をCO2枯渇させることは光呼吸による光合成損失を増大させ、著しく生育を悪化させることになります。
水槽での二酸化炭素濃度は不足しがちです。
そうした低CO2環境で生育可能な水草は重炭酸イオン利用能力が高い水草、とくにCAM、シングルセルC4などといった二酸化炭素濃縮能力が高い水草か、光合成速度が著しく遅くCO2枯渇を起こしにくい水草に限られる、ということになると思われます。
CO2添加なしでも急激に育つ水草は高い重炭酸イオン利用能力と高い光合成速度を併せ持つ、極めて特殊な水草です。とくにクロモは極めて広いpH適応幅、シングルセルC4回路、高い重炭酸イオン利用能力と、一見したところ究極の水草であるかのように見えます。それなのになぜ世界の水草が全部クロモのようになっていないのか・・・水草のニッチ分割はまだまだ分からないことだらけです。
1:Li, P., Liao, Z., Zhang, B., Yin, L., Li, W., & Jiang, H. S. (2025). Bicarbonate use reduces the photorespiration in Ottelia alismoides adapting to the CO2‐fluctuated aquatic systems. Physiologia Plantarum, 177(1), e70085.
水草、果てしない挑戦の数々 2025年6月4号
「水草、ケイ素、リグニンについて」
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| センニンモ Potamogeton maackianus |
これは、しなやかで、軟弱ですぐ溶けてしまうというなんとなくの水草イメージとはやや異なっている。
まず、分解に関与する物質を考えてみる。植物は細胞壁が多くを占めている。その構成要素は多糖類のセルロース、ヘミセルロース、およびフェノール高分子のリグニンである。
そして、難分解性に寄与するのはなんといってもリグニンだ。
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| センニンモ Potamogeton maackianus |
不思議に思って調べてみると、一部の水草、たとえばセンニンモ Potamogeton maackianusなどは乾燥重量比にして10%前後、ときに15%ものリグニンを含んでいることがあるという。
驚きだった。
リグニンは合成にかなりコストのかかる物質だといわれている。一般に燃やしたときに出るエネルギーは生合成にかかるエネルギーの目安になるといわれるが、セルロースが1.74kJ/gなのに対してリグニンは2.27kJ/gあって、生産コストが高い(と木材学の教科書には書いてあった)。さらに、リグニンの多く沈着した細胞壁は引張強度をあげる一方で靭性には脆くなるといわれる。
そのため、水草は重量を支える必要がないのでリグニンを削減して成長速度に振っているのだ、と思っていた。事実、リグニンは植物が重力と乾燥に対抗して成長するため、と書いてある本も多くて、それを鵜呑みにしていたのだ。
けれども、どうやらそうとも限らないらしい。
実験材料としてもてはやされてきたオオカナダモやコカナダモのリグニン含有量は、たしかに少ない。
しかし、ササバモやマツモ、ホザキノフサモなどもそれなりのリグニン含有量を持つという。
リグニンが多い水草の代表格といえるセンニンモはたしかに、触ってみても妙に硬いので納得もいきやすいのだが。
細胞壁での植物体の支持のために使われる物質といえば、上記三者のほかにケイ素があげられる。ススキで手を切るアレだけれど、植物体の支持にも大きく関与している。
驚いたことに、ヒルムシロ属やマツモ属といった多くの水草において、乾燥重量比にしてイネ科植物に匹敵するほどの珪素を含み、植物体の支持のために用いられるらしい。トクサ類およびイネ科では珪素が重要なのはよく知られているけれど(トクサ類では必須)、沈水植物において珪素が重要という視点はそこまで持っていなかった。もっと驚いたことに、沈水植物では珪素含有量とリグニン含有量に正の相関があるように見えることすらあるようだ。ふつう陸上の植物では珪素を使えるなら(生合成にコストのかかる)リグニンを削減するし、抽水植物ではそれが成り立つのだが、沈水植物においてはそうでもないらしい。リグニンの中間産物がケイ素沈着に関係するという指摘もあるにはあるし、機械的剛性を高めようとするとリグニンとケイ素の両方が必要という話なのかもしれない。
(つづく)
~おまけ~
今回の原稿をChatGPTにファクトチェックをさせてみたら、おもしろいことになった。
「実際にセンニンモ(Myriophyllum spicatum)は高リグニン含有種であり、研究対象にもされている。」
ハルシネーションを起こしたようだったので、とりあえず全和名に学名をつけなおしてもう一度出してみると、…
「センニンモ=Potamogeton maackianus:問題なし。
ただし、Myriophyllumと誤認されやすいため、「Potamogeton属である」ことは読者にとって有益な補足かもしれません。」
なんだか腹が立ったので、センニンモをMyriophyllum だと本気で迷う水草ファンは流石にいないと思う。学名を追記したのはChatGPTがどうやら生物の学名―和名対応を非常に苦手とするようであるため、と送信したところ
補足:ChatGPTが学名と和名の対応に弱い理由(簡潔に)
一対一対応でないケースが多い
例:Potamogeton crispus は「チクゴスズメノヒエ」
だが、「センニンモ」とされる場合もあり、地域差・時代差がある。
( ,,`・ω・´)ンンン?狙ってやったかのように滅茶苦茶ですね。
すると恥を上塗り。
正しい対応関係:チクゴスズメノヒエ:
🔹 学名 → Potamogeton crispus
🔹 和名由来:葉縁の鋸歯と波打つ葉
🔹 特徴:葉は羽状ではなく鋸歯あり、春植物として早期成長性が高い
「Potamogeton 属」「水草」「沈水植物」「センニンモ」「スズメノヒエ」などの語が同一文脈で共起することで、出力時に構造的な照合ミスが生じることがあります。
特にChatGPTは「よくあるペア」を拾いに行く癖があるため、属名が合っていて、和名らしきものが並ぶと誤対応しやすいです。
( ,,`・ω・´)ンンン?さらに恥の上塗りをしていますね。
❌ 誤りについての正確な訂正
「チクゴスズメノヒエ」という和名は、Potamogeton crispus に対するものではありません。
Potamogeton crispus の正しい和名は、
→ クリスパスモ
チクゴスズメノヒエ は、そもそも イネ科(Poaceae) に属する全く別属の植物であり、Potamogeton 属(ヒルムシロ属)とは無関係です。
( ,,`・ω・´)ンンン?クリスパスモ???また新しい造語を作りましたね。
🔍 正しい情報に基づく訂正
Potamogeton crispus(P. crispus) の正しい和名は:
→ チジミザサ(あるいは単に「チジミモ」等とされることも)
**「クリスパスモ」**という和名は、日本語文献・標準和名体系には存在しません。
もうどうなってもいいや。
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エビモ Potamogeton crispus
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おまけはさておき:出典
Schoelynck, J., Bal, K., Backx, H., Okruszko, T., Meire, P., & Struyf, E. (2010). Silica uptake in aquatic and wetland macrophytes: a strategic choice between silica, lignin and cellulose?. New Phytologist, 186(2), 385-391.
RABEMANOLONTSOA, H., & SAKA, S. (2012). Characterization of Lake Biwa macrophytes in their chemical composition. Journal of the Japan Institute of Energy, 91(7), 621-628.
Schoelynck, J., Puijalon, S., Meire, P., & Struyf, E. (2015). Thigmomorphogenetic responses of an aquatic macrophyte to hydrodynamic stress. Frontiers in Plant Science, 6, 43.
福島和彦, 船田良, 杉山淳司, 高部圭司, 梅澤俊明, & 山本浩之 (編). (2024). 木質の形成: バイオマス科学への招待 第三版. 海青社
水草、果てしない挑戦の数々 2025年7月3号
「水草の“溶け”に関しての一考察」
水草は何故溶けるのか、としばしば思う。
肥料をやって、大きく素早く育ったものほど、溶けやすいような気がする。いっぽうで、大きく、頑丈に育った水草を見ることもまた、しばしばあって、見るたびに、上手いなあと思う。そして、フィルターを強くすると水草が溶けにくくなるだとか、肥料をやりすぎると溶けやすくなるだとか、いろいろ言われている。
では…溶けるとはどういうことだろう?
細菌感染による軟腐病ないし、そのたぐいである、と私は捉えている。他の要因で溶けるという説も趣味家の間ではしばしば聞かれるが、そもそも水生植物がわざわざ溶けることによってなんかしらの適応意義があるとは、どうも私には納得できない。
植物の細菌防御はクチクラによる面が大きいといわれており、陸上植物において感染門戸は気孔と傷口が重要とされる。しかし、水草はクチクラを薄くし、葉表面からのCO2吸収効率を高めている。ゆえに水草は細菌防御に関して陸上植物に比べて不利なのではなかろうか、と予想できる。ドラセナやヘミグラフィスをはじめとして、水中に沈めた陸上植物はしばしば、水中に適応できる“本物の”水草より“溶けにくく長持ちしやすい”。
ほかにも細胞壁を強化し、分解速度を遅らせるような物質…たとえば葉に含まれるリグニンなども葉の防御に関係する。シダやヒカゲノカズラの葉は重量ベースで多くのリグニンを含むことで知られているが、切り取って水中に沈めると数週間、時に数か月もつことがある。ヤマトヌマエビの梱包材がシダだったり、ベタファーンとしてわざわざ輸入されたり、産卵床にヒカゲノカズラが愛用されるのもうなずける。
ほかにも関与するのが、必須栄養素やpHといった細菌側の要因である。たとえば、泥炭の分解速度にはpHとN、P濃度が大きくかかわることが知られている。一般に低pHでは細菌生育が抑制される。細菌にとって重要性の特に高い栄養素もまた、N, P, Kである。Nはアミノ酸に、Pは核酸に、Kは細胞内電解質に必須であることを考えれば納得できる。
さて、肥料を足したら、水草が溶けた――よく経験される話である。
これは水草に限ったことではなく、野菜などでもN過多で軟腐病が頻発するので、似た類の現象だろうと思われる。野菜の場合は成長の促進に対して細胞壁の形成が不完全になることや、リグニンの合成系(フェニルプロバノイド系)が抑制されるなどがいわれている。
水草においても同様のことが起きるはずだが、水中においては、水中の濃い肥料——N、P、Kの存在自体が細菌増殖を促進するという可能性も考えられる。
南米水草やクリプトコリネなど、低pHに適応した水草ほど溶けやすいといわれがちだし、他の水草でもpHをあげると溶けやすい。これは、低pHに適応した水草は細菌に対する防御力が低く、高pHにおける細菌防御に支障をきたすためかもしれない。
もうひとつ、フィルターをきかせると、溶けにくくなるといわれている。
これは単純に水槽における細菌叢の安定(⁂細菌は硝酸態窒素も取り込めるものが多いので硝化作用がそこまで効くかは怪しいと思う)とも考えやすい。しかし、あえて他の面にも注目してみよう。水流に応答して水草のリグニン合成能やシリカ含有量が上昇し、強度が上がることが知られている(Schoelynck et al., 2015)。先にも述べたように細胞壁の強度は細菌防御と直結するので、水流を利かせて育てた水草のほうが溶けにくいと予想される。
だろう、かもしれない、予想される、といった文言ばかり並ぶ文章になってしまったが、水草はいまだわからないことだらけであるゆえ、致し方無い。
Schoelynck, J., Puijalon, S., Meire, P., & Struyf, E. (2015). Thigmomorphogenetic responses of an aquatic macrophyte to hydrodynamic stress. Frontiers in Plant Science, 6, 43.
水草、果てしない挑戦の数々 2025年8月4日掲載
「ヒシのこと」
夏だ。ヒシの季節だ。
現状、池探しの際にはごく当たり前で、もっともふつうな水草の一角といえよう。
…しかし、とても変わった水草である。
そもそも。かつてはスブタなども「どこにでもある植物なので」と書かれたりしたし(たしか立花吉茂だった気がする)、クロモなどもいまだに「ごく身近にありふれた水草」と形容されてしまったりするので(一部の大きな湖のほとりに住んでいる人以外、目にする機会はないだろう)、いまの「普通」は決して未来や過去における普通ではないことに留意が必要である。
げんに――ヒシもまた、かなりの勢いで減少している。何も生えていない池の畔にヒシの種の殻が流れ着いているのをよく目にするが、それはその池の水草が一種残らず滅び去ったことを意味する墓標である。
ヒシの種子は大きくてわかりやすいが、底の堆積物を検鏡すれば、さまざまな水草がそこにあり、みな滅び去ったという事実がわかるのだろう。ヒシの種子殻はあるが現状何も生えていない池の多さは、日本の湿地環境の劣化のすさまじさを意味するものであって、どんな普通種でもまったくもって安心できない状況にあることを無言で表している。
将来安泰な水草など、一種もない。
ありとあらゆる水草が、今日も滅びへと向かっている。
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| ヤナギモと混生するヒシ |
さて――前置きはさておき、まだある程度「身近」といえるヒシの話をしようと思う。
ヒシというのは、実態以上に「強い」水草だと思われがちである。
たとえば、かつては大量に繁殖したヒシをどう処理していたんだ、というような話が話題に出たりするけれど――ヒシは相当富栄養化したアルカリよりの環境でないとうまく育たない植物である。化学肥料や苦土石灰がここまで普及する前は、今ほどにはヒシが跋扈していなかったのではないだろうか。それに、ヒシはジュンサイハムシやヒシハムシにしばしば食いつくされる様子がみられ、水草の中でもかなり被食圧が目立つものといえる。
さらにイメージとは逆に、ヒシは極めて繁殖力が低い水草である。
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ヒシの実
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ため池の墓標になってしまっていることからわかるように、またヒシの実は古くから食用として知られるように、ヒシはかなり大きな果実をつけ、中には種子が1個だけ入っている。
大きな種子をつけるということは、種子数とトレードオフの関係にある。
最大でどの程度増えるのだろうか?
真面目に農業として栽培される場合、1株あたり100~200個、といったところらしい。
なお、私はヒシ類の栽培を非常に苦手としているので、その1/10程度の種しか回収できないこともざらである。さすがプロだ。
しかしプロが育てたとしても、水草として、いや一年草としてはやはり、その種子数は桁が1つ、いや2つほど足りない。
上記の数字もよく分岐している場合であり、野生の株はしばしば2~3分岐しかみられないものを見かける。なお葉10枚あたり2輪咲くというから、葉痕を5で割ればある程度の概算ができるはずである。さらにヒシの果実がしばしば未熟果(しいな)に終わることからするに、野生での種子数は上記の数字よりもさらに少ないと思われる。さらに、種子の寿命も短い。ヒシのシードバンクは5年持つかどうか怪しいレベルらしく、ほかの水草のシードバンクと比べると寿命の桁がやはり1つ足りない。
つまり翌年には前年にばらまかれた種子の多くが発芽し、種子が巨大なこともあって高い生存率が見込めるということらしい。いっぽう、数年連続で全滅したら、その池のヒシはもう絶滅である。池によって種子の形が結構違うことからして、(種子がいかにも水鳥に引っ付いて移動しそうな)イメージに反してヒシはそこまで移動できていないのだと思う。そもそも、あの巨大な種子が引っかかっていたらまともな鳥なら羽繕いで取り除くはず…と思っていたら、バードウォッチャーがヒシ付きの水鳥を観察する例はまれにあるようだ。
このようにヒシは一年生水草としては珍しく、少数の生存率の高い種子をつけ、しかも定住型・・・という、きわめて保守的な繁殖戦略をとっている。
動物で言うところの、K-戦略的な水草といえるかもしれない。
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| 北陸で見かける変なヒシ |
余談。ところでヒシの栽培はさきに書いたように私は苦手としていて、大量の肥料を施肥しなければいけないと思っていた。しかし実際の作付けでは化成肥料の施肥量はイネなどとそう変わらない~むしろ少ないようであり、ほかの要因が絡んでいそうだ。古くはテオプラストスも書いているが――ヒシがとりわけ変わっていると感じるのは、その特異な水中根だ。細かく分岐した水中根は葉緑素をもっており、しばしば沈水葉と間違われる。このように、ヒシの根はアンカーの役目を果たす根と、肥料吸収と補助的な光合成をおこなう水中根に分かれており、どちらもなかなか発根してくれない。
栽培の難しさはこの特殊な根にあるのではないかと思っている。
栽培にあたって特にネックになるのが、ヒシの発根能力の低さと、肥料が枯渇すると水中根が脱落し、さらに肥料吸収効率が落ちて肥料切れが激化しているように見える。弱アルカリ性の濁った水域を好むことからCa, Mgの要求量が多いこと、また有機質の要求量が多いのではないか(大量の腐植酸を要求するのではないか、また、リン要求量が多いため、有機酸が多くないと水中のリンが沈降して枯渇するのではないか?などなど)、と思っているが、いまいち納得のいく説明ができているわけではない。ほかにもヒシが好む濁り水の懸濁物質も成長に有効なのではないか…などなど。
正直迷走していて、うまく育てられている方がいれば是非…と言いたいところだが、まだもう少しいろいろ試してみようと思う。
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ヒシの実比較(福島潟にて展示されていたもの)
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ヒシに関しては分類史、進化史、各地のトウビシなどなど、語りたいことはまだあるが、今回は字数オーバー甚だしいのでこのあたりで終わりとする。
水草、果てしない挑戦の数々 2025年9月4号
「バリスネリアとアクアリウムの原点 」
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| コウガイモ Vallisneria denseserrulata |
最も由緒正しいアクアリウムプラントとは何か?と聞かれれば、バリスネリアと答えざるをえまい。バリスネリアこそ最初の水草水槽、いや、アクアリウム自体を実現せしめたものなのである。
このサイトを訪れている方にはなじみ深いであろう、ワーディアンケースというものがある。ようするにガラスの箱で植物を育てるというものだが、元々はナサニエル・バグショー・ウォードという人が、1829年にスズメガの蛹をガラス瓶の中で羽化させようとしたところ、偶々混入していたシダの胞子が発芽してうまく育つということを発見したことに起源しているという。その後、1840年代から1850年代にワーディアンケースとシダブームが到来し、Pteridomania、という新語が作られる始末だったという。ウォード自身もカメレオンやヒキガエルを導入してみたというから、テラリウムのはしりであったともいえる。(1)
さて、同時期にフランスではジーン・ヴィレプレ・パワーJeanne Villepreux-Powerがガラス容器を用いた観察装置を考案した。(2) 彼女の波乱万丈すぎる人生を書きだすと大幅に脱線してしまうが、あまりにも興味深いので、もしもっと知りたい方はヘレン・スケールズ「貝と文明」第七章(築地書館)を参照してほしい。
さて、このころの装置はあくまでも観察・研究用のもので、一般に楽しまれるアクアリウムの起源はもっと待たねばならない。
ガラス税の廃止により、ワーディアンケースをはじめとしたいくつかの発明が一般に普及し、新しいものと博物学には目がない19世紀イギリス人を熱狂させた。ワーディアンケースにはじまる、ガラスの箱やガラス瓶にも当然のように、水が溜められるようになった。
こうしてイギリスでもアクアリウムの原型にあたるようなことがはじまったのだが、フィルターはおろか、エアレーションすらない。「毎日半時間ほど手でかき回す」という方法が真面目に行われていたという。(1)
さて、この状況を打破したのがロバート・ウォリントンRobert Waringtonで、ロンドン化学協会に1850年に金魚とバリスネリア・スピラリス、巻貝を12ガロンの容器に入れ、ほぼ一年間水を変える必要がなかったと報告している。(スネールは敵と息巻く21世紀アクアリストは、どうもアクアリウムの原点に物申したいらしい)何度も書くが当時フィルターはおろかエアレーションすらなかったので、魚を飼うには水替えしかなかった。1845年の金魚飼育についてみてみると、「私はこれらの魚の世話を自分で行っており、昼間はガラスの球体、夜は土鍋に入れています。こうするのは、24時間に2回、確実に水を交換するためです。」とある。(3)
その後、フィリップ・ヘンリー・ゴスPhilip Henry Gosseによって1853年にはロンドン動物園に水槽が作られ、彼がアクアリウムという語とともに水槽趣味をけん引していくのだが、それは海水が中心なのでここでは深く触れない。
さて、淡水に戻ろう。ゴスに影響を受けたキングズリーは1855年にこう書いている。「もし今年は海辺に行かず、「岸辺の不思議」を体験する機会がないとしても、自宅の居間で「池の不思議」を少し覗いて自然史を学ぶことはできます。冗談ではありません。淡水水槽は、海水水槽ほど美しくはありませんが、はるかに簡単に作れます。」そして、そこに入れる水草として2種を推奨している。アナカリスと、バリスネリア・スピラリス。しかも2種とも「コヴェント・ガーデンの良心的な店で手に入る」と言っているのだ。(4)翌年1856年には、シャーリー・ヒバードShirley Hibberdがバリスネリアを「水草水槽に欠かせない」として、3番目に書いている。(これもまた面白い本で…おそらく水草について詳しく書かれた最古のアクアリウム本のひとつ。)
なんと1番目はストラティオテス・アロイデス、2番目はミズハコベだ!当時のイギリスがどんなに涼しかったかを思い起こさせる。なんならホシクサやハリナズナまでぶち込んでいる…育ったのだろうか?(5)
バリスネリアが3位に甘んじたのは、バリスネリア・スピラリスがヨーロッパでも基本的には南部にしか分布せず、イギリスには舶来品だったためだろう。タイプ産地はピサとフィレンツェの間の用水路、である。
このように、バリスネリアは19世紀アクアリウムの確立において極めて重要な役割を果たし、まずは水草を水中で育てる、という点がクリアされたのは大きい。また、イギリスの湧水が著しく硬水であり、この硬水を軟水化することにも期待されていたようである(5)。これはバリスネリアが重炭酸塩を利用できることとも関係しただろう。
今回は水草水槽の原点を触れるだけで長文になってしまったので、この辺りで締めとしたい。
こう、歴史を巡ってからバリスネリアを見ると、また違って、光って見えるものである。ヒバードの記述は面白いが、栽培が難しい物ばかり並んでいて、真似して皆が育ったとは思えない水草のチョイスだ。もしバリスネリアがなければ、アクアリウムという文化の定着すら怪しかっただろう。
(1) Barber, Lynn. The Heyday of Natural History: 1820–1870.(高山宏訳『博物学の黄金時代』国書刊行会)
(2)「Scales, Helen. Spirals in Time.(林裕美子訳『貝と文明』築地書館)
(3) Loudon, Jane. The Lady's Country Companion. London: Longman, 1845.
(4) Kingsley, Charles. Glaucus; or, The Wonders of the Shore. London: Richard Clay and Sons, 1855.
(5) Hibberd, Shirley. The Book of the Aquarium and Water Cabinet. London: Groombridge and Sons, 1856.
脚注
Jeanne Villepreux-Power:「ジャンヌ・ヴィルプルー=パワー」表記が一般的かも。しかし、「貝と文明」に倣った。この本おもしろいので、読んでみようと思った方にとってフックになればと思ったため。
Robert Warington:アクアリウムは最初、War”r”ington‘s caseとして(誤植入りで)広まった。ワーディアンケースにならって水草水槽をウォリントン・ケースと呼ぶ人がいても、いいのかもしれない。
バリスネリア・スピラリス:高山宏訳「博物学の黄金時代」ではコークスクリュー・バリスネリアとなっているが、コークスクリューが売られるようになるのはずっと後(おそらく20世紀後半?1967年のA Manual of Aquarium Plantsが知っている中では初出)
水草、果てしない挑戦の数々 2025年10月4号
「ウリカワのこと」
水草を探し始めたころ、ウリカワがなかなか見つからずに探し回った覚えがある。
というのも、小林道信氏のメダカ飼育本にウリカワを薦めるものがあって、水草を始める前から存在だけは知っていたのである。
さて、水田雑草から水草を始めよう、となって近所のわりあい山あいの水田を巡ってみたが、ない。
滑稽なことにミズオオバコやホシクサ、イトトリゲモなどを一通り見てから、ウリカワに遭遇することになった。そのころは徒歩圏内でもバイカモが茂っていたし、近くの池にはイトモなどもみられた。いまでは、信じがたい話である。
とはいえ、いつまでも見つからなかったわけではない。
分布にどうやらムラがあるらしい、と気づいたのはしばらく経ってからで、探す場所を変えてからは、見かけることも多くなった。
特に印象に残ったのが、浅い掘りあげに、一面茂っているものだった。
ミナミメダカがたくさん群れていて、数センチの水中から花を上げていた。
たしかにこれは綺麗だ、と感動したものである。
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| 水田に生えるウリカワ(Sagittaria pygmaea) |
それから、何回かウリカワを栽培しようと試みたけれど、全然うまくいかなかった。
ちょっと気難しい面があって、なかなか根付いてくれないし、根付いても田んぼで見るあの増殖力を見ることはできなかった。
やっとウリカワが育った!と思ったら、その後オモダカの矢じり状の葉が出てくることもしばしばだった。オモダカの幼株はウリカワとよく似ており球茎が大きいので、球茎をつけて持ち帰れば、より長く育つのであった。
今から思うと、当時の栽培法はただ単に肥料が足りなかっただけのように思う。
改めて真面目に育てて、1鉢くらいはウリカワで満たさねば、と思っている。
さて、ウリカワはへら状の葉を数枚つける、オモダカ科オモダカ属の植物である。オモダカといえば矢じり状の葉を思い浮かべる方も多いかと思うが、私はずいぶん長いこと、ウリカワを姿形の似たピグミーチェーンサジタリア(Sagittaria subulata var. pusilla)の近縁だと思ってしまっていた。
とくにあの、田の浅い掘りあげに群生する姿のイメージが強すぎて、これはピグミーチェーンサジタリアみたいなものだという誤認をさらに強くしてしまっていたのだった。
種として見るとピグミーチェーンサジタリアとウリカワはむしろ遠縁で、ウリカワは国内種だとアギナシ(Sagittaria aginashi)に近く、ピグミーチェーンサジタリアはナガバオモダカ(Sagittaria graminea)と近縁である、と知ってみると、栽培の気難しさもちょっと納得できると思った。
さらに、オモダカ属の中で最も早期に分岐したグループである北米原産のタイリンオモダカ(Sagittaria montevidensis)にもウリカワそっくりのベルト状の葉で一生を過ごすssp. Spongiosaがいるように、オモダカ属の中でもベルト状の草姿を持つものはいくつかのグループで収斂進化している。
調べていくうちにウリカワは“塊茎から芽が出たばかりの状態を模倣する”幼形成熟(neoteny;ネオテニー)のサジタリアだ、と思うようになった。
ウリカワの塊茎は著しく休眠性が弱く、ランナーが出てもそのまま発芽してしまう。さらに成長は日長ではなく萌芽後日数で決まり、花を上げるタイミングもあまり決まりがないように見える。球茎から発芽して葉を5枚ほどつけるとランナーを伸ばしはじめ、葉が10枚になるころには子株が根付いている。
事実、ウリカワがネオテニーであるという考えは新しい物でもなんでもなくて、かつてから言われている話である。
ちなみに”ネオテニー”という観点から水草を見渡してみると、よく似た姿のアクアリウムプラントが多いのも納得がいきやすい。というのも、水草は通常、発芽→成長→抽水化、のように成長ステージごとに姿を変えて育つので、水中で成長を続ける間は発芽直後の幼形葉の姿を維持するのが効率的といえるのだ。
ところで、サジタリアの類の沈水葉というとピグミーチェーンサジタリアのような、肉厚でスポンジ状で、基部まで幅広のものの印象が強い。(少なくとも1つ例外があって、だからこそ凄いのだけど!)。
同じオモダカ科でも、チェーンアマゾンやアフリカンチェーンソードの沈水葉はだいぶ趣が異なり、これらの沈水葉は基部は細く葉身は薄い。そして、属が違うにもかかわらず、よく似ている。
この事はとても不思議に思っていたのだが、オモダカやヘラオモダカを“播種した時に“、発芽後は基部が細く葉身は薄い沈水葉がまず展開し、この質感も形態もチェーンアマゾンやアフリカンチェーンソードにとても似ているので驚かされた。
もしかすると、これらはオモダカ科に共通したもので、種子から発芽した直後の段階を模倣しているのかもしれない。げんに、これらの種や近縁属は明らかな球茎を持たず、「球茎から発芽した直後の段階」がそもそも推定される祖先はない。
草姿が似ている水草には、おそらく似る理由があるはずだ。
水草、果てしない挑戦の数々 2025年12月1号掲載
「抽水植物における、二次通気組織について」
植物の水生適応にあたって、過湿・貧酸素は極めて大きな問題といえる。
そのため水生植物や湿生植物では、組織間にすきまの繋がったチューブ、ないしスポンジ状に穴だらけにして含気させることによって、空気中もしくは植物内部で発生した酸素を根系までいきわたらせるシステムが発達している。
空気中の気体の拡散は液体中に比べて数千倍高速なので、ガスが充満した経路があるだけで拡散速度の上昇が見込める。かつ水草のような、伸びても数メートルがせいぜいといったレベルでは、はっきりした換気システムを設けずとも通気組織を設けておけば貧酸素の問題はだいぶ問題はましになる。(これが高さ30mの木だったら大問題だが)
ただ、ハスは特殊な一方通行に近い通気系を発達させているし、コウホネ類などほかの浮葉植物も一方通行に近い経路を獲得している。より小型の水草にも、もしかしたらこのような一方通行の流路を発達させているものがあるかもしれないが、よくわかっていない。
アクアリウムで用いられるさまざまな水草の茎をカットしたときに、どの穴から気泡が出てくるかは、観察して調べるとまだまだ発見がありそうなテーマだ。
今回はこうした、植物の通気組織について取り上げようと思う。
水生・湿生植物に見られる通気組織は、大きく一次通気組織と二次通気組織の2つに分けられる。
一次、二次、と言ってもとっつきにくいので、まずはここから解説する。
植物は基本的に先端に向かって伸びる一次成長と、横に向かって茎が太くなる二次成長の、2つの成長様式をとる。
一次成長では、先端に向かって伸びていく。
この際に通気組織を作ると、先端に向かって成長しながら、かつ孔があいた組織ができていくことになる。
つまり、先に行くにつれてだんだん茎が太くなっていくということになる。
これを、一次通気組織という。
一方、二次成長で幹が肥大するとともに、表皮の下にあるコルク形成層が増殖し膨らむことによってスポンジ状に基部の茎が肥大していく場合もある。
こちらを二次通気組織といい、湿生植物や一部の抽水植物に発達する。(顕著に見られる?)
今回はこの、二次通気組織にフォーカスしよう。
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ミソハギの基部にできたひび割れ 水位が上昇すると内部に白く含気したスポンジ状の二次通気組織が発達し、下部から皮層を引き裂きながら上行していく |
さて、抽水植物を観察して気づいたことがある。
二次通気組織は、きちんと水中で育っている水草(沈水性ないし、全草が水没して成長中の植物には、という意味)にはほとんど見られない。これはあくまで個人的観測であるので例外を見つけたら是非教えてほしい。
そもそも皮層の下にある周皮(コルク形成層により合成された組織の総称)の発達に伴う表皮の裂け目すら全くと言っていいほど見当たらない。
先ほど挙げたレンコンの穴や水草の茎を切った時に出る気泡は、そのすべてが一次通気組織に由来するものであり、茎が成長してから周辺が張り裂けるようにして二次通気組織が出現するのはもっぱら抽水植物や湿生植物にみられる現象である。
だから、世界のどこかに二次通気組織を発達させる沈水性の水草があったら、大いに私はびっくりする。
いまのところ、水中で生育する植物に二次通気組織は見あたらない。
もし、まだ私が見たことがない例外があるとするならば、それはおそらくLimnosipanea spruceana(南米に産するアカネ科の水生草本)であろう。この種は沈水性であるにもかかわらず木質化した茎基部を持つからだ。
ここまで書くと、そりゃあ水草は「草」なんだから二次成長=茎を太くする成長は乏しいし、二次通気組織も発達しないのではないか、という人が出てくるかもしれない。
しかし湿生・抽水植物には、草本であっても二次通気組織を発達させるものが多い。
かのダイズですら二次通気組織を発達させることができ、耐湿性に大きく関与している。
日本では伝統的に田んぼの畔に大豆を植えて育てる(畦豆という)ことができたのは、おそらくこの性質を強く持つ品種が用いられてきたためであろう。
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ミズオジギソウ 発達した二次通気組織をフロートに用いる。
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二次通気組織は抽水植物ではミソハギ属や、有名な例ではミズオジギソウの白いフロートもそうで、一年草、多年草、さらには木本(たとえば、ポンドアップル)にすらみられる。( 上記の例は詳細な検討がすでに先行研究でなされているもののみを列挙した。 )
では、抽水植物には二次通気組織が普通にみられるのに沈水植物にはほぼ見られないのは何故か?
これを考えるにはルドウィジア属にみられる多様性はヒントになるかもしれない。
この属には、一次通気組織を発達させるもの、二次通気組織を発達させるもの、成長段階に応じて二次通気組織を発達させたりさせなかったりするものがみられる。
とはいえ、一般にルドウィジアとして親しまれるパルストリス、レペンス、アクアータあたりは茎の変化が見当たらないため、 この項ではアクアリストにはややマイナーなルドウィジアをメインに扱うことになる。
グランデュローサ(ルブラハイグロ)やスファエロカルパ、水田に見られるチョウジタデやヒレタゴボウ、特定外来生物として巷を騒がせているオオバナミズキンバイといった種においては、抽水状態の茎の根元がバキバキ裂けて太くなり、白いスポンジ状の”肉“がちらりと覗かせる様子が見られる。これが二次通気組織である。
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ケミズキンバイ とくに基部で二次通気組織が発達し、グロテスクな見た目になる
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特に顕著なものは、沖縄に行くとみられる。ケミズキンバイはグロテスクなほどに張り裂けて、白くふやけた茎が何やら死んだ魚が浮いているようであり、キダチキンバイもまるで、切腹したように白い肉を覗かせている。もはや気味が悪い。
二次通気組織を発達させる種として挙げたスファエロカルパやルブラハイグロにしてみても、水中で育てている株の茎がバキバキに裂けているのを、私は見たことがない。むしろ水草らしからぬほどに、みっちりした通気性を感じない茎である。
もしこの類の茎が水中でも張り裂けてスポンジ状の物質が出現しているのを見つけた方がいたら、是非教えてほしい。
同様に、沈水能力を持ったルドウィジアに二次通気組織の発達が見られる気配はない。パンタナルレッドピンネイトなどのL, inclinataでは二次通気組織が発達しない。かわりに非常に発達し、ホテイアオイの葉柄を思わせるほどフカフカに含気した一次通気組織をもつことが知られている。
こうしてみてみると、水草において二次通気組織と一次通気組織は役割が全く異なるのではないかという仮説が考えられる。
少なくともルドウィジアにおいて、二次通気組織は嫌気性の泥に根を下ろした状態で茎の空中部・水面部やや上から地下の根部にかけて発達し、そうしたルドウィジアでは、上向きのスポンジ状の呼吸根がともに見られる(呼吸根自体は一次通気組織なので注意。いつかフォーカスしたい)。
ケミズキンバイにみられる発達した二次通気組織は、ミズオジギソウのものと同様にフロートとしての役割に転用されたのかもしれない。ケミズキンバイは呼吸根もフロートに転用しているからだ。
このことから、ルドウィジアなど湿生~抽水植物の二次通気組織は泥中の根にかけて「空気中の」ガスを根まで取り込む、シュノーケルのような役目を果たすのではないだろうか?と推定してみた。
つまり、光合成ガスを根まで送り込む一次通気組織とはそもそも役割が違うのではないかという仮説である。
もしそうだとしたら、なぜか沈水性および全草が水に漬かった水草に二次通気組織がみられず一次通気組織ばかり発達する、という個人的観測の謎も腑に落ちる。
水の中にシュノーケルを沈めても、意味がないからだ。
・補足1
たしか遠野でのことだったと思う。
かつての農業を撮ったドキュメンタリーを見ていたら、ドロドロの田んぼの畔にダイズが育っていて唖然とした。なにせダイズを育てるために水田転換畑を作らざるを得ず、そのために折角の水田の不透水層を破壊するという話がよく聞かれて心を痛めていたからである。本当かいな、と思って調べてみると、過湿なはずの畔にダイズを植える風習は畔豆と称して国内各地であるものだったという。
耐湿性の高いダイズ品種ほど、二次通気組織をよく発達させることが知られている。一般に大豆は水はけのよい環境を好むといわれるから、きわめて過湿な畔にダイズを植える日本の伝統的な農法はダイズの常識からするとだいぶクレイジーであり、そうした環境に適した品種だからこそ可能だったと考えざるを得ない。
ダイズの原種を辿るとわりかし湿地を好むツルマメであり、これも二次通気組織を作る性質に富んでいるから面白い。そして全国各地の水田周囲にふつうにみられるツルマメと、ダイズとの交配や自然交雑による品種形成への影響もまた、たいへん注目されているところである。ただ、これと耐湿性の関連は憶測の域を出ない。
・補足2
二次通気組織はコルク形成層によって作られる。コルク形成層は表皮(もともとの皮)が肥大成長によって張り裂けたときに備えて増殖する層といえる。ただ、教科書的な「裂けたときにコルク形成層が増殖する」という増え方は、二次通気組織にはあまり適していない。
二次通気組織の場合、表皮を引き裂くようにモリモリと増殖してくる。ミズオジギソウやケミズキンバイを見ると、ポップコーンのように内側のコルク形成層が増殖して含気しながら引き延ばされ、はじけて飛び出すイメージが近い。
ところで、コルクという語感からは、あのワインの栓に使うようなもの(コルクガシの樹皮)を想像されるかと思う。コルクと二次通気組織は非常によく似ていて、同じく大量のガスを含んだ構造である。
ただし、二次通気組織はコルクと違ってスベリンをそこまで多く含まない、スポンジ状のふわふわとした柔らかい組織である。
ところで、コルクガシの分厚いコルク層は山火事の多い乾燥した地中海気候において難燃性かつ、火災時に炭化しながら吸熱する耐熱装甲として機能する。
この際に、大量に含まれるスベリンの疎水性かつ難燃性で吸熱の大きい性質が重要になってくる。まさに宇宙開発に用いるアブレータ―(熱を吸収させる素材)としての機能を果たすらしい。
なんと現在もロケットのアブレータ―としてコルクが現役である。先日もコルクアブレータ―を装着したロケットのフェアリングが石垣島の海岸に漂着した、とか、いやアブレータ―そのものではないのでは?などなどと某SNSで話題になっていたので、ついついこの話をしたくなった。
古くさいという話では全くない。今後も当分使われそうだ。次世代宇宙機の開発でもコルクを用いたアブレーターの研究が盛んに行われている。
水草、果てしない挑戦の数々 2026年1月3号掲載
「フロリダ便予約品に関してのメモ」
Charmがフロリダ便を入れる、というだけでも大騒ぎなうえに、先行予約でとるというのはもう結構な事件であるといっていいでしょう。さらにあまり取り上げられることのない抽水植物がかなりリストに上がっているので、それらについて紹介していこうと思います。
Acrostichum danaeifolium
(サイトではスペルミスでAcrostichum “danaefolium”となっています。)中南米に広く分布するミミモチシダの仲間です。日本にも分布するミミモチシダとは葉の形がだいぶ異なっています。より分岐が少なく羽片の数が多く、立つ傾向が強いため、よりシダらしい見た目と言えるでしょう。生態はよく似ていて、おもにマングローブ林の下層や海岸沿いの湿地に生育します。もしかするとミミモチシダと同様に幼株は水中で生育することができるかもしれません。中南米ではA. danaeifoliumは淡水域や比較的乾燥した場所にも分布し、同地域のA. aureum(ミミモチシダ)が汽水湿地に優占するのに対してより広域な適応幅を示すとされます。ただし、塩水への適応ではミミモチシダに劣るようです。ミミモチシダでさえ流通が少ないので、増殖品の素性がわかるものが流通するというのは個人的には非常に気になっているものです。分布はミミモチシダよりやや南北に広いようなので、栽培条件に関しては…どうでしょう、耐寒性がありそうなレベルではないとは思うのですが。
“ヒツジグサ“ ”Nymphaea tetragona”
個人的に気になっているものです。だってフロリダでスイレン類の原種として育てられているヒツジグサですよ?ほかの品種群に血を引かせるためにもつかわれているのかもしれないです。いつ、どこのヒツジグサなのかも興味があります。初めてアジアから欧米に持ち出されたヒツジグサは確か、中国産だったはずですが…。ところでN. tetragonaは(前々からそう述べていた通り)エゾベニヒツジグサを指すことになりました。フロリダアクアティックナーセリーの写真を見る限り、これは(長らくN. tetragonaと混同されていた)ヒツジグサN. pygmaeaだと思います。
エレオカリス モンテビデンシス(Eleocharis montevidensis)
各社違うものを送ってくることで有名な“モンテビデンシス”。とくにフロリダのものは一味違うらしい…というものです。水中では巨大な株立ち状のヘアーグラス、というかスイッチが入って巨大化したサルバドールカールラッシュの化け物みたいなものになるようです。水中栽培可能ですし、水槽にも比較的導入しやすいサイズ感なので今回特に狙いどころだと思います。(何者なのか、という点を含めて)
個人的に気になった上記3つを上げてみました。
ほかにも
Schoenoplectus americanus(サンカクイに似るが汽水性で小穂の柄がない)、
Schoenoplectus californicus(フトイに似るが若干茎が三角形よりで葉がより退化傾向にある)、
Eleocharis interstincta(FANのカタログにないぞ??クログワイに近い種なので、生育開始期に沈水形をもっているはず…が、どう引き出すか)、水生ハイビスカス(バナナワニ園などで植栽が稀にあるが、めったに見ることができない…)、私にも正体がいまいちよくわからないパピルスまわりの栽培品などなど、面白いものだらけです。
…が、くれぐれも逸出には気を付けて。フロリダを北限にしているものはともかく、フロリダ以北まで分布のあるものは日本の冬を越冬すると考えたほうが自然です。
著者プロフィール
今まさに失われつつある水草のある景色を求め、日夜フィールドを彷徨い記録している
"いつまでもあると思っていた。
ようやく手が届く、そう思ったとき、もう何もなかった。
空虚と無念と後悔は、記憶と合して憧憬を生む。その先が過去なのか、未来なのかは、もはや朧げで。
ただ私を引き込んでいく。もっと知れと。
ここを翌年訪れた時、もう水草はなかった。しかしいまでも夢に出てくる。"
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