※本記事はなるべく客観的な事実と正確な内容を書くように努めましたが、一部憶測で書いている部分もあり、また専門家(≒利害関係者)に下読みや監修等を依頼していないため、専門家レベルでは誤りや事実に反する点など多分にツッコミどころがあるかもしれません。あくまで初心者に現状の問題のあらましを伝えることを目的に書いたものです。あらかじめご了承ください
(明確な誤りを確認されましたら情報提供して頂ければ幸いです)
序.
ブセファランドラ属植物は日本のほぼ倍の面積があるボルネオ島にのみ棲息するボルネオ島の固有種である。日本には出射氏が初めてもたらしたクアラクアヤン北部産typeⅠ、Ⅱから知られるようになり今では世界的に水草として愛好されている渓流に産するサトイモ科植物である。
現在この草を巡っては日本へのインドネシアからの輸入が禁止されているにも関わらず、毎月のように数多くの新種が日本にやってきている。
本論では何故そのようなことが可能なのか、そしてそこにはどのような問題があるのかを、主に初心者に向けて僕の知っている範囲で簡単に整理したいと思う
1.何故禁止されているのか
現在、日本においてブセファランドラを始めとしたインドネシアからの植物輸入が規制されているのは、2020年2月にインドネシア側で検査証明書(phytosanitary certificate)が添付された園芸用アンンスリュームの苗からバナナネモグリセンチュウが発見されたことがきっかけである。
このため日本の植物防疫所が同年9月から抜き打ち検査を実施したところ、同年10月に再びインドネシアの検査証明書付きアンスリュームからバナナネモグリセンチュウが検出された。
このため日本(農水省)は、インドネシアの植物防疫所が日本向けに検査証明書発行の一時停止を要請し、輸入された植物からセンチュウが検査で発見された場合は廃棄または返送する措置を2020年11月から当面の間実施(※事実上の輸入禁止措置)している
海外に由来する農業害虫といえば沖縄におけるセグロウリミバエの侵入や、奄美大島に侵入したソテツシロカイガラムシによる甚大な被害が記憶に新しいところであるが、本来国内にいない外国産の害虫の農作物への被害は非常に甚大である。(バナナネモグリセンチュウはショウガやイモ類などへ被害を及ぼす)そのため植物防疫所が全国の海港や空港で輸入検疫を行い、水際で厳しく検査、監視している。
こういった経緯があり、現在日本にはインドネシアからのブセファランドラ属植物の直輸入は禁止されている。(※タイ、シンガポールからもブセファランドラ属植物を輸入する際は現地の植物防疫所によるバナナネモグリセンチュウの検疫検査証明書が必要である)
インドネシア産バナナネモグリセンチュウ寄主植物に係る緊急の暫定措置 の実施について
図:対象植物の例「植物防疫法施行規則別表一の二の七項」
2.バナナネモグリセンチュウ汚染の広がり
インドネシア、シンガポール、タイから輸入されたブセファランドラ属植物、アヌビアス属植物がバナナネモグリセンチュウに感染していた例は2018年、2019年に成田の輸入植物検疫において発見されたものが初発である
このうちタイ、シンガポールの水草から検出されたセンチュウの塩基配列は一致しており、インドネシアのセンチュウは別の種のようだ。
輸入植物検疫において東南アジア産水草類苗から発見されたバナナネモグリセンチュウ Radopholus similis(Tylenchida: Pratylenchidae)
上記論文にあるように、シンガポールにおいては輸出前の衛生的でない圃場においてセンチュウの感染が拡大しているようである(おそらくこれは他の国でも同様であろう)
なお、20年10月にはインドからの検疫証明書付きのアヌビアスがバナナネモグリセンチュウに感染していた例も見られた。このようにバナナネモグリセンチュウ汚染は東南アジア各国を中心に急速に周辺に広がっており、危機的な状況にあったと言っていいだろう
(コロナ禍で国際流通が抑えられたため日本で蔓延には至らなかったとも言えるような気もする…そういった点では行幸であったと言えるのかもしれない)
3.植物防疫の仕組み
そもそも海外から日本に植物を輸入しようとする場合、”輸出国政府が発行する「検査証明書(植物検疫証明書又はphytosanitary certificateとも言います。)」が必要となります。これは、輸出国政府の植物防疫機関の検査を受け、合格となった植物に発行されるもので、国際植物防疫条約によって定められています。この「検査証明書」を「輸入植物検査申請書」に添付してご提出いただきます。
注)輸出国政府の植物防疫機関に輸出検査の申請をする際、輸出国によっては、日本の輸入許可証を求められる場合がありますが、輸入禁止品以外の植物であれば、日本の輸入許可証は必要ありません。なお、輸入禁止品については、こちら「輸入の禁止について」をご覧ください。”
農林水産省HPより(https://www.maff.go.jp/pps/j/business/import/faq/index.html#Q201)
こういった書類申請と検疫検査手続きが必要である
これは国際植物防疫条約(IPPC)を根拠法として、植物及び植物生産物に対する有害動植物のまん延及び侵入を防止するために国際的に標準化された手続きである。この条約には現在185の国と地域が加盟しており、ほぼ世界中で遵守されているルールである
4.輸入禁止以前のブセファランドラの扱い
インドネシアからの直輸入が盛んに行われていた頃はブセファランドラは人気も知名度も低く、一部の好事家だけが買い求めたため、現在何十万円で取引されるようなブセもかなり安価に流通していた
それらは現在でも名の知れている有名な採集者による採集便だけではなく、数多くの個人採集者がボルネオに分け入りブセファランドラや他属の植物(いわゆる五目)を採集したり、現地で買い付けをし、プライベート便としてハウスネームで販売していた
また、身近な沢に自生している植物がお金になることに気がついた現地人が、採集した植物を売り込むようにもなり、それを個人輸入して楽しんむ趣味家もいた
結果として、現地ではブセファランドラは一株ずつではなく重量単位での取引が行われ、自生地のパッチをまるごと剥がして採集するような破滅的な山採り行為が広がった
(これはピクタムのブームの時も同じようなことが起こったし、過去に日本において山野草の世界で行われていたことを他国で繰り返している状態ともいえる)
そして、日本においては輸入禁止の手前くらいから徐々にブセファランドラの人気が出始めていたようで、流行り始めで輸入が規制されたことで一気に収集熱が加熱したようだ
(僕はこの頃丁度アクアから離れていたのでそのあたりの事情は伝聞でしか知りません)
5.輸入禁止後の動向
ボルネオ島は広大な島のうち南側(カリマンタン)がインドネシア領であり、北側はマレーシア領(サバ州、サラワク州)とブルネイと、一つの島の中で三つの国が存在している。
(そのためマレーシア側からブセを輸出する手段もあるようだ…ブルネイからは生物の輸出が長らく禁止されている)
また、ブセファランドラ属についてはインドネシアの植物防疫所も日本向けの輸出の際に検疫検査証明書を発行しなくなった(事実上の輸出禁止)
(日本から名指しで植物防疫所が仕事してないと言われてヘソを曲げたのかもしれない)
しかし、ブセファランドラがインドネシアから日本へ直輸入ができないのは、インドネシアと日本の2国間の植物防疫上の問題であり、インドネシアからタイやシンガポールへの輸出は問題なく行われ続けている。そして、その国の検査証明書が付けば日本へ輸入することも可能であるため、現在でもインドネシアから東南アジアの国々へ輸出し、そこから日本に向けてブセファランドラが輸入されている(いわゆる第三国経由)
なおインドネシアからの植物の輸入はブセファランドラ属などの指定種でなくても、病害に感染していると思われる葉や虫食いのある葉、感染の可能性がある根はすべて切除しないと日本側の植物防疫所の検査を通らないそうだ(根がツンツルテンのホマをよく見ますよね)
6.現在:密輸、第三国経由輸入の問題
ブセファランドラのインドネシアからの輸入は実質禁止になったが、民間レベルでは現在も検疫を通さずにブセファランドラを輸入する事例(要するに密輸)が後を絶たないようである
麻薬の密輸を想像してもらえばいいのだが、衣料品に挟んだりお茶に挟んだり書籍に挟んだり、様々な方法で国際スピード郵便(EMS)を利用して、インドネシアからフレッシュなブセファランドラの密輸は現在も継続して行われている(地獄)
元手がタダ同然で売れればカネになるとなれば、リスクを犯してもカネが欲しい現地人、密輸と分かっていても現地ブセが欲しいマニア、何も知らずに手に取ってしまう初心者がいる限りはこの流れは止まらないだろう。
これが最もリスキーである一方、最も手軽にブセファランドラを日本に入れる手段であるため、密輸は後を絶たないようである。(メルカリなどで日本語が怪しい人が売っているのはコレが多い…と思う)
それとは別に近年問題視されているのが第三国経由の輸入である。
上述の通り、ブセファランドラの直輸入が禁止されているのは日本とインドネシアの間の話であり、インドネシアからタイやシンガポールなどの第三国に輸出し、その国で検査証明書を取得したブセを輸入することは、倫理的な問題を横に置けば法律上問題がない
これはいわば日本側の設定した規制を骨抜きにする、法の抜け穴を突いた脱法的な輸入手段であり、カネのために脱法行為をする輩のビジネス、まさにロンダリングといえるだろう
ここで問題になるのは、脱法的に輸入されてくるリスクのある植物と、合法的に輸入されてくるケアされた植物は第三国の検疫証明書が付いている以上は表面上は区別がつかない点だ
例えば、アクアフルールやオリエンタルといった東南アジアの水草ファームが生産したブセを輸出する場合も、タイなどのファームで養生、育生されたブセをカミハタなどの問屋や個人が買い付けて輸入する場合も、第三国を経由して検疫証明書のついたブセを輸入するという意味では脱法的な輸入ブセと表面上は変わらないのである
(脱法的に輸出する場合、他の草に混ぜて輸出することでセンチュウ検査逃れをしているケースもあるとか…)
どこまでを良しとして、どこからを悪しとするかは人によってかなり線引きが分かれるところだろう
(個人的には、特にファームのブセは商業的に生産育種しやすいものを選抜し、クリーンな環境の下で大量生産された一種の工業製品であり、センチュウの感染リスクや現地環境への影響などの点では山採りとは峻別されるべきであると考えるが…)
カネに色が付かないように、山採り株と生産株のどちらも東南アジアから輸入されてきたブセファランドラには変わらず、目利きが利く専門家やマニアでなければ見分けることは難しく(見れば一発で分かるそう)、初心者がほいほいと騙されて(と言っていいだろう)第三国経由のロンダリング株を購入してしまうケースは後を絶たない
現実として、この第三国経由の野採りブセは堂々と輸入されており、国内のイベントやショップで販売されたり、問屋でも取り扱うところもある。勿論コレに異を唱える採集家や趣味家も多くいるが、事実の認定が困難で、場合によっては営業妨害や名誉毀損にあたるケースもあるため強く言えない部分もあるだろう
関係者や消費者の道徳心や倫理観が厳しく問われるべき部分である
先日の黄花ブセのように、めったに輸入されないレアな種だと我慢できずに飛びついてしまうマニアもまだまだ多く、マニアこそが問題意識を持ちつつ身綺麗で居続けることにプライドを持たないといけないとも個人的には思う
グレーな品もそれを求める需要があるからこそ供給が続くのだということを忘れてはいけない
※これは完全に憶測だが、インドネシア、タイあたりには国をまたいで圃場を構えて山採りのブセを集めては各国に売り捌いているブローカー的な存在がいるのではないだろうか?
第三国経由においては特にタイからの買い付けが圧倒的に多く見受けられるため、結構大きなビジネスになっているような気がする
(有名ファーム産ではない、問屋便で入ってくるちょっと変わったブセは大体そういう由来なのではないだろうかと思ったりする)
7.第四の道
さてそんなわけで、玉石混交で色々とグレーな部分が見え隠れしてしまう最近の日本のブセファランドラ事情であるが、新たな潮流も産まれつつあるようだ
①日本の趣味家が過去に輸入されたブセファランドラで国内で実生交配株を作る試み
②インドネシアで現地採集株を組織培養して輸入しようとする試み
③現地のファームと協力しクリーンな環境で採集株を育成し、合法的に輸入する試み
④現地で採れた種を国内で育生、生産しようとする試み
などが行われているそうだ。
これらの新しい試みは、山採りの直輸入でもなく、密輸でもなく、第三国経由のロンダリングでもない、いわば第四の道と言えるのではないだろうか
これらのうちどの手法がメジャーになっていくのか、グレーな輸入株を相手に果たして採算が取れるのか、まだまだ道半ばで課題は山積みであろうとは思うが、今後も魅力あるブセファランドラ属植物を合法的に、クリーンに、後ろめたい思いをせずに継続的に楽しむためにも、生産者も趣味家も価値観を刷新していかなければいけないのかもしれない
それが将来の新たな趣味家が増えるきっかけになれば幸いである
(green)
終わりに
ちなみに熱帯魚飼育者であれば、2018年にガーパイクの類の魚が特定外来生物に指定されまとめて輸入禁止されたことで新規の輸入や飼育ができなくなったこと(継続飼育にも大臣への申請が必要)。それに巻き込まれる形で本来日本の屋外では冬を越えられない熱帯産のキューバンガーまでまとめて規制の対象になったことを覚えていたり恨みに思っている方も多いと思う
今後バナナネモグリセンチュウが国内に侵入、定着するようなことがあれば、ブセファランドラ属(他のサトイモ科植物でもありえるが)がきっかけになって東南アジア一帯からの”サトイモ科植物”がまとめて輸入禁止になる可能性もないとは言えないだろう。そして密輸が平然と行われ続けている現状を思えば、それはありえない未来ではないと思ってしまうのは僕だけではないと思いたい

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